
Shigella sonnei(ソンネ菌)に対する経口ワクチン候補が、細菌性赤痢の発症を89%抑えた。6月30日に The Lancet Infectious Diseases に掲載された第2相試験の結果である。試験では米国人成人に意図的に菌を接種した。弱毒生赤痢菌ワクチンとしては、これまでで最も強い有効性シグナルとなる。この分野では1世紀以上にわたり承認製品が一つも生まれていない。
ただし、この数字を支える試験は計画どおりには進まなかった。試験中に安全性の問題が生じたためである。研究者は途中でワクチン用量を半減させ、一つの試験群を打ち切り、参加資格を狭めた。公表された有効率は2種類の用量を統合したものだ。しかもワクチン接種者に生じた発症例は、すべて中止された高用量群で起きている。
試験で分かったこと
ワクチンWRSs2は、senA、senB、virG(icsA) の各遺伝子を欠失させた弱毒生 S. sonnei 株である。経口投与する。2022年10月から2024年1月にかけて、エモリー大学とシンシナティ小児病院医療センターで108人が登録された。いずれも18~49歳の健康な成人で、S. sonnei に対する既存免疫が低い者に限られた。
このうち73人が菌接種(チャレンジ)に進んだ。最終接種から28日後に入院し、生きた S. sonnei を約1,500個経口摂取した。5日後にシプロフロキサシンが投与された。
ワクチンを2回接種した34人のうち、発症は3人だった。判定は盲検下の評価委員会が行った。プラセボ群26人では21人が発症し、発症率は81%である。ここからワクチン有効率89%(95%信頼区間71~96)が算出された。
重症例はさらに減った。ワクチン群34人中1人に対し、プラセボ群26人中18人である。有効率は96%(95%信頼区間78~99)となる。ただしこの解析は事後的なものだ。症例定義も委員会判定ではなくプログラム上の定義を用いている。したがって主要結果より重みは軽い。
数字の位置づけも押さえておきたい。過去の結合型ワクチン S. sonnei-rEPA は、若年成人の野外試験で74%の有効率を示した。しかし低年齢児では防御を示さなかった。イスラエルの結合型ワクチンは全体で28%にとどまった。従来の弱毒生候補WRSs1は、タイでのチャレンジ試験で40%だった。S. flexneri 2a を標的とするバイオコンジュゲートFlexyn2aは、米国のチャレンジ試験で約30%である。
減量は安全性への対応であり、設計上の選択ではない
試験は当初3群構成だった。10⁶ CFU(コロニー形成単位)2回接種群、10⁶ CFU 1回接種群、プラセボ群である。69人に投与した時点で、独立データ安全性モニタリング委員会(DSMB)が招集された。ワクチンによるグレード3の消化器症状が発生したためだ。試験全体では、登録108人のうち6人に接種後グレード3の有害事象が生じた。安全性審査は2回行われた。
1回目の審査は2023年3月である。2人に重度の悪心と下痢が生じたことを受けた。2人とも肥満があり、いずれも減量薬を服用していた。
これを受けて治験実施計画書が改訂された。用量は半分の5×10⁵ CFUに減らされた。1回接種群の登録は中止された。無作為化比率は2対1に変更された。BMI 40超の者と減量薬服用者は除外された。
2回目の中断は2024年1月である。さらに4件のグレード3事象が発生した。うち2件は、SARS-CoV-2またはノロウイルスの併発感染に関連していた。この時は追加の変更は行われなかった。ワクチン関連の重篤な有害事象および死亡はなかった。該当者は全員、2回目の接種に耐えた。
有効性の結果への影響は大きい。主要解析は2つの用量を統合している。しかし内訳は大きく異なる。3件の発症例はすべて、10⁶ CFUを2回接種した16人の中で起きた。減量後の5×10⁵ CFUを受けた18人では発症ゼロである。10⁶ CFUを1回だけ受けた13人でも発症ゼロだった。これらの群別の数値は探索的であり、統計的検出力を欠く。正式な主張の根拠にはならない。とはいえ、著者らが今後の開発に低用量を推奨する理由はここにある。
さらに本紙の見解として、これらの数値は統合された89%という要約を、見かけよりも脆弱なものにしている。この数字は、16人中3人が発症した用量と、18人中ゼロだった用量とを平均したものだ。しかも人数は、その差が実在するのか偶然なのかを判定するにはあまりに少ない。もし用量間で本当に差があったのなら、統合した数値は誰も採用予定のない投与法を記述していることになる。逆に差がなかったのなら、両者を分けた安全性改訂こそが、この試験で最も重要な出来事だったことになる。論文はこれらの事実を明確に報告している。ただしこの結論は導いていない。この結論は本紙のものである。
免疫データにも留意点がある。抗体価は初回接種の約2週間後にピークを迎えた。2回目の接種後は再上昇しなかった。著者らはこれを、このモデルでは2回目接種の明確な上乗せ効果がないことを示すと解釈している。
赤痢菌が難しい標的である理由
細菌性赤痢は、糞便に汚染された食品・水・物の表面を介して広がる。性的接触でも伝播する。症状は炎症性下痢、発熱、腹部けいれんである。疾病負荷は低・中所得国に集中する。これらの地域では1~5歳の小児が症例と死亡の大半を占める。
菌種の分布も導入を難しくする。WRSs2が標的とする S. sonnei は高所得国で優勢である。一方、死亡率が最も高い地域では S. flexneri が優勢だ。著者らは、世界規模での使用には S. sonnei に加えて S. flexneri 2a・3a・6 を含む多価候補が必要だと指摘する。
より鋭い論拠は薬剤耐性である。米疾病対策センター(CDC)は、米国内の年間感染を約45万件と推定する。うち約24万2,000件が抗菌薬耐性である。さらに注目すべきは傾向だ。2026年公表のCDC調査によれば、超薬剤耐性(XDR)分離株は2011~2015年にはゼロだったが、2023年には分離株の8.5%に達した。XDRとは、アンピシリン、アジスロマイシン、セフトリアキソン、シプロフロキサシン、ST合剤(トリメトプリム・スルファメトキサゾール)に耐性を示すものを指す。これらを治療できるFDA承認の経口抗菌薬は存在しない。しかもXDRの割合は、S. flexneri 分離株では調査全体の約2倍だった。これは S. sonnei ワクチンが対象としない菌種である。
有効性(efficacy)は実効性(effectiveness)ではない
著者らは、結果をどこまで読めるかについて率直である。経口生ワクチン候補は、高所得国以外では失敗を重ねてきた。弱毒生のSC602は米国人成人では防御を示した。しかしバングラデシュでの評価では菌排出が乏しく、免疫原性も弱かった。腸内細菌叢、栄養状態、過去の曝露、重複感染、環境性腸症の違いが影響していると考えられる。著者らは、制御感染モデルではこうした多様性を捉えられないと記す。またワクチンは小児でも流行地集団でも試験されていない。
さらに2つの限界がある。第一に、接種から菌接種までの間隔が28日しかない。防御がどれだけ持続するかは何も言えない。第二に、プラセボ群の1人が、2回目のプラセボ投与から2週間後にワクチン株陽性となった。著者らは、これが検査上のアーチファクトなのか、生ワクチン株の真のヒト‐ヒト伝播なのかを特定できなかった。菌排出データの解釈にあたっての注意点として明記している。
こうした留保に対し、実務上の利点もある。経口ワクチンは、注射に習熟した人員も滅菌器材も要さない。必要となるコールドチェーンも注射剤より少ない。著者らは、だからこそ疾病負荷が集中する資源の限られた地域に展開しやすいと論じる。ただし、そこで実際に効くならば、という条件付きである。
今後
著者らは今後の評価に5×10⁵ CFUを推奨する。あわせて、小児を含む流行地集団での試験を求めている。持続期間、他の血清型への交差防御、定期小児ワクチンとの同時接種も検討課題だ。小児では用量と接種スケジュールのさらなる最適化が必要になるとみられる。
この試験が示したのは原理の証明である。すなわち、経口投与で Shigella に対する腸管免疫を誘導でき、その防御は大きくなりうる。示していないのは、同じことがバングラデシュの幼児でも成り立つかどうかだ。そこでは腸内細菌叢が異なり、自然曝露が繰り返され、入院病棟もない。この隔たりを埋める作業が、今後数年の課題である。

