ハエは匂いを追わない。覚えているのは匂いの端の位置だ

心地よい匂いの発生源を探すショウジョウバエの行動は、猟犬というより、巣へ戻るアリに似ている。ハエは、教科書が何十年にもわたってプルーム追跡の定番として説明してきた方法、つまり風上に向かって匂いの濃度勾配をたどる方法は採らない。その代わりに、匂いの端へ戻る方向を記憶し、その記憶した角度に向かって進み、プルームの境界が動くたびに記憶を更新する。ロックフェラー大学とコロンビア大学の研究チームがNature誌に発表したこの発見は、ケシの実ほどの大きさの脳しか持たない昆虫でさえ、保存された方向の記憶を使って目に見えない化学的な景観を移動できることを示している。これは、これまで昆虫界の偉大なナビゲーターであるアリやハチと結び付けられてきた計算戦略を借りたものだ。

これまでのプルーム追跡の標準モデルは反射的なものだった。昆虫は匂いを感じると風上へ突き進み、匂いを失うと、再びプルームに当たるまで輪を広げながら風横方向に探索する。このモデルは連続的なプルームにはうまく機能するが、実際のプルームは乱流的で断続的であり、匂いの断片と断片の間には、まったく情報を含まない長い清浄空気の区間がある。研究者らは長年、動物は記憶によってそうした空白を埋めているに違いないと考えてきたが、匂いは目に見えず、自然環境では制御できないため、この考えを検証するのは困難だった。ヴァネッサ・ルタ率いるロックフェラー大学のチームは、この問題を解決する仮想現実システムを構築した。頭部を固定したハエは空気で浮かせた発泡スチロール球の上を歩き、ハエの進行方向は一定の気流を送るノズルの回転に連動しており、ハエ自身が仮想世界を操縦する仕組みだ。風だけが唯一の外部方向手がかりで、ハエは完全な暗闇の中を歩き、幅50 mm(2インチ)、長さ1000 mm(39インチ)のリンゴ酢の匂いの回廊を追跡した。

現れた行動は予想外だった。ハエは匂いの中をゆらゆらと進むのではなく、境界から約10 mm(0.4インチ)以内の一つの側縁に沿って移動し、平均5秒弱の短い時間だけプルームの中に入っては出て戻ることを繰り返した。回廊の反対側まで渡ったのは、探索の4%未満だった。戻りはランダムな彷徨ではなかった。ハエは浅い角度でプルームを出るが、戻るときは端に対してほぼ垂直に、より短く、より直接的な経路をたどり、練習を重ねるにつれて戻りの効率は向上した。同じ直進距離と旋回角から構築したランダムウォークシミュレーションでは、回廊に到達する頻度がはるかに低い回り道の経路が生成され、直線的な戻り経路はハエの移動統計だけからは生まれ得ないことが示された。

最も示唆に富む実験では、濃度勾配に従う動物が必要とする手がかりを除去した。ハエは濃度が一定のプルーム、濃度が増加するプルーム、勾配を逆転させたプルームをいずれも同様に追跡できたため、進行方向の勾配は無関係であり、鋭い横方向の境界こそが際立った特徴だった。左右の比較も必要なかった。嗅覚感覚ニューロンを実際の匂いの代わりに光遺伝学的手法(オプトジェネティクス)で活性化し、両方の触角にほぼ同期して刺激を与えた場合も、ハエは風向きと急峻な横方向の匂い変化に頼って同じ端追跡行動を示した。さらに、10分間追跡した後にプルームを消すと、ハエは匂いを追う動物ならそうするはずの、最後に匂いを感じた場所の探索は行わなかった。ハエはある方向を保持したのだ。

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その方向は、昆虫の脳のナビゲーション中枢である中央複合体に保存される。研究チームは、柱状の細胞集団であるFC2ニューロンと、進行方向をコードするEPGニューロンから記録した。FC2ニューロンは、ランドマークに対して一定の角度で歩く行動であるメノタキシスの際に、ハエの目標方向をコードすることが知られている。端追跡中、FC2のシグナルは、ハエがその方向へ旋回する数秒前からプルームの境界を指し示し始め、FC2ニューロンを光遺伝学的手法で不活性化すると、進行方向の細胞を不活性化した場合と同様に、端追跡が損なわれた。ここから浮かび上がるのはベクトルに基づく計算だ。ハエはプルームの境界へ戻る方向を、距離や位置ではなく角度の目標として保存し、境界が動くたびにその目標を更新し続ける。だからこそハエは、風から45度または90度ずれたプルームを追跡でき、気流に対して垂直に歩いても引き返すことはなく、さらに、プルームを出るたびに20 mm(0.8インチ)横へ跳ぶプルームを追跡できた。これは位置の記憶ではなく方向の記憶を必要とする課題である。

この戦略は現実的なプルームにも適用できる。研究者らはプルームの物理モデルを用いて、ハエが最後に横切った匂いの境界の方向という進入記憶を保存し、それを利用して効率的に再進入することを示した。シミュレーションでは、進入記憶を持つ軌道は持たない軌道よりも、発生源から50 mm(2インチ)以内に到達する頻度がはるかに高く、実際のハエ12匹のうち10匹が現実的なプルームを追跡して発生源領域に到達した。著者らは、このシステム全体を、プルーム追跡が進化的に保存されたナビゲーションツールキットを動員している証拠だと解釈している。そこでは、アリやハチが巣を見つけることを可能にするのと同じ計算である方向記憶が、動的で目に見えない目標のために用いられる。匂いのプルームは巣とは違い、固定された位置として保存することはできず、記憶できるのはその方向だけである。

この発見は、動物が匂いをどのように利用するかという見方を塗り替える。匂い自体には方向の情報が含まれないため、発生源まで追跡するには化学的な手がかりと空間的な信号の統合が必要であり、今回の研究は、その統合を行うのが反射ではなく記憶であることを示している。昆虫の中央複合体と、梨状皮質や嗅内皮質を含む哺乳類の前脳回路との密接な進化的関係は、匂いの経験を内部の空間表象に結び付ける能力が古くから存在し、生物の間で共有されていることを示唆する。暗闇を歩きながら匂いの端の角度を記憶するハエは、かつて帰り道を見つけたことのあるあらゆる動物にとって、見覚えのある何かをしているのだ。

雅子 訳

References

Andrew F. Siliciano, Sun Minni, Chad Morton, Charles K. Dowell, Noelle B. Eghbali, Silas E. Busch, Juliana Y. Rhee, L. F. Abbott and Vanessa Ruta, A vector-based strategy for olfactory navigation in Drosophila. Nature (2026). DOI: 10.1038/s41586-026-10827-7.

Nature Research Briefing, How fruit flies track the edge of odor plumes. Nature, 29 July 2026. DOI: 10.1038/d41586-026-02325-7.

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