
F1チームは、ほとんどの企業が処理に苦労する規模でデータを生成し分析しているが、その作業を率いる人々は、このスポーツの競争上の優位性は依然として経験豊富な人間にあると主張する。アストンマーティン・アラムコのテクノロジー部門の幹部は、イギリスグランプリを前にシルバーストーンにあるチーム拠点の見学ツアーに合わせて、生のデータをレースのパフォーマンスに変えるのは職人技と専門家の判断であると説明した。
チームの技術パートナー各社は、このスポーツをAIの過酷なテストベッドと位置づける。現代のF1マシンは1万3000点以上の部品で構成され、開発サイクル中は平均15分ごとに新しい部品が設計される。エンジニアは極度の時間的プレッシャーの中で、空力変数、環境条件、レース戦略を考慮しなければならない。機械学習はマシンのデータを分析してパフォーマンスのシグナルを特定するために長年使われてきたが、チームは現在、困難なシナリオへの先手を打った対応を開発するため、生成AIとエージェント型AIをワークフローに組み込んでいる。
CIOのファブリツィオ・ピロッティ氏は、ITを支援部門ではなくパフォーマンス向上機能と位置づける。同氏の説明によれば、IT部門の役割は、障害管理の改善とマシンのパフォーマンスに対する理解の深化を通じて、エンジニアが能力を最大限に発揮できるデータ基盤とツールを提供することだ。優先プロジェクトには、エンタープライズアプリケーションの改良、サーキットサイドシステムの開発、そしてソフトウェア開発プロセスそのものへのAIエージェントの戦術的な適用が含まれる。
拠点訪問で最も印象的だったのは、最先端のAIと伝統的な職人技が共存していることだった。チームのマネージング・テクニカルパートナーであり、このスポーツ史上最も著名な空力エンジニアの一人であるエイドリアン・ニューイ氏は、オフィスで新しいデザインを手書きで描いていた。ピロッティ氏によると、新しく加わったメンバーは、この仕事に細部の手作業がどれほど多く含まれるかに驚くことが多く、マージナルゲインを追求する世界では、専門家による小さなカスタム調整こそがレースの勝敗を決める改善なのだという。
この環境ではAIが意思決定者ではなく意思決定支援レイヤーとして扱われるため、人間の役割は残り続ける。何年もの経験を持つエンジニアこそが、データから生成された複数の選択肢を見て、モデルにはない判断力を使って進む道を選ぶ。チームのコマーシャル・テクノロジー・アンバサダーであるエリック・エルンスト氏は、これを認知スケーラビリティの観点から説明した。AIはチームのメンバーに現在以上のことを行う能力を与えるが、経験そのものはモデルに委託できないという。
パートナーエコシステムもその哲学を反映している。チームとともにソブリンAIモデルとエージェントに取り組むコヒアは、テレメトリー、診断、シミュレーションデータにまたがってモデルがタイムリーな洞察を引き出し、エンジニアの作業を遅らせる退屈な業務を自動化する方法を模索している。ピロッティ氏は、チームはファイアウォール内で動作する用途特化型のモデルを導入し、機密データを封じ込めてトークン使用量を抑えたいと述べた。アームは、ピットストップのような重大な場面でより迅速な意思決定サイクルを支える高エネルギー効率のコンピューティングを提供しており、コグニションは、複雑な問題を分解して実務の中で学ぶ、エンジニアリングチームの延長として機能するAIエージェントを開発している。
そのすべてを支えるデータインフラ自体も競争上の問題になっている。チームは2025年10月、データストレージのNetAppへの移行を完了したと発表し、2025年5月にはコアウィーブをAIクラウドコンピューティングパートナーに指名した。ただし、特定のワークロードがどこで実行されているかについての詳細は、競争上の機密性を理由にチームは明かしていない。ブロックス・アンド・ファイルズは7月、チームが自社のGPUを保有し、データ処理の多くがオンプレミスに残っており、コアウィーブがそのハードウェア上でAIモデルを実行していると報じた。
チームのテクノロジーフォーラムからのより広いメッセージは、レースの枠を超えて向けられていた。この見方によれば、F1は、どの企業も再現できない条件下、すなわち極度の時間的プレッシャー、安全性に関わる重大な判断、公開できないデータのもとでAIを試す過酷な場である。そうした環境で重要となるスキルは、そのまま他の産業にも応用できるというのが主張だ。業務へのAI統合を巡る競争はデータセンターやソフトウェアプラットフォームにまで広がっているが、ゴールラインは依然として、モデルが生み出すものを解釈する人間にかかっている。
雅子 訳
Sources: AI in Formula One: Competitive advantage is all about the human in the loop (ZDNet, Aug 1, 2026); Aston Martin Formula One: Accelerating Innovation with AI (Manufacturing & Engineering Magazine, Jul 29, 2026); Aston Martin’s Aramco Formula One Team, CoreWeave, NetApp, and the race to gain a competitive storage advantage (Blocks & Files, Jul 13, 2026); Aston Martin Aramco Formula One Team Now Fully Powered by NetApp Storage (Business Wire, Oct 8, 2025)

