脳の最も微弱な信号を読み取れるかもしれない浮上磁石

これまでに開発された中で最も感度の高い磁場センサーには、深刻な運用上の問題がある。超伝導量子干渉素子(SQUID)は絶対零度付近でしか動作せず、大掛かりな極低温装置が必要だ。スピン交換緩和フリー(SERF)型の原子磁力計は、外部からの磁気干渉をほぼ完全に遮断する必要がある。どちらの制約も、センサーを測定対象から遠ざけることになる。人間の脳が発する微弱な磁気信号を検出したいと考える者にとっては、悪い知らせだ。

北京大学のWei Ji氏が率いるチームは、マインツとバークレーにいるDmitry Budker氏らと共同で、これまでとは異なる方式の磁力計を実証した。タッパーウェアの容器ほどの大きさの真空チャンバー内に浮かぶ小さな磁石で、地球磁場の100億分の1という弱さのフェムトテスラ規模の磁場を読み取る。この成果は『Science』誌に掲載された。

センサーとなる磁石は直径1 mm未満で、半径およそ410 µm、厚さ380 µmの円盤だ。二つの力の釣り合いによって空中に保持される。上方にある80枚の円盤磁石の積み重ねが重力に逆らって磁石を引き上げ、下方にある熱分解黒鉛の板は、それ自体が逆向きの磁場を生じる反磁性材料で、磁石を押し上げて安定させる。浮遊磁石の研磨面で反射したレーザー光は位置検出器に当たり、外部磁場によるわずかな傾きは光学的に読み取られる。

磁石はどの部品とも機械的に接触していないため、通常の機器を悩ませる振動ノイズから隔離されている。また強磁性体であるため、スピンは室温で自然に整列しており、そのスピン密度は1 cm³当たりおよそ10^22個のスピン量子で、原子磁力計に使われるルビジウム蒸気よりおよそ7桁高い。これにより、他の方式の限界となっているスピン射影ノイズが大幅に抑えられる。強磁性体が磁化の乱れを緩和する仕組みであるギルバート減衰は、個々のスピンの揺らぎをナノ秒のうちに平均化するため、センサーは実質的に清浄な集団信号を測定できる。

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工学的な詳細を見ると、フェムトテスラの領域がいかに厳しい条件かをうかがい知ることができる。チームはアルミニウム製の真空チャンバーをガラス製に交換した。金属に生じる渦電流がジョンソンノイズを発生させ、測定を汚染したためだ。安定化に使う熱分解黒鉛は粉末状に粉砕してエポキシ樹脂で固め、渦電流を大きなループではなく小さなループに閉じ込めて、エネルギー散逸を大幅に減らした。浮遊磁石のねじれ振動モードは約305 Hzで共振し、そのQ値は約1万2000に達する。きわめて損失の少ない振動だ。

その結果、室温かつ地球磁場の存在下で、共振時には32 fT/√Hzという感度を達成し、mTの範囲までの残留磁場にも耐える。これはSQUIDやSERF磁力計の性能に匹敵しつつ、それらに必要な条件を不要にするものだ。共振周波数は浮上磁場を調整することで動的に変えることもでき、より広い周波数範囲での閉ループ動作が可能になる。

開発の動機は一部、生物医学にある。脳の電気活動が生み出す磁気信号はきわめて弱く、センサーを頭皮に近づければ近づけるほど、捉えられる信号は強くなる。浮上方式は、試料とセンサーの距離を数百µmまで縮める。これは極低温方式が許容する距離より1桁近い。同じ物理は、心臓の信号や基礎物理学にも当てはまる。研究グループは以前から、高精度磁力計を使って暗黒物質の候補やスピンに依存する新奇な力を探すことに取り組んでおり、浮上した強磁性体はそうした探索にとって異例に清浄なプラットフォームだ。

ただし注意点もある。フェムトテスラ級の感度が得られるのはねじれ共振のときだけで、そこから外れた周波数での広帯域感度ははるかに控えめで、高い周波数では約200 pT/√Hz程度だ。ノイズの大部分は周囲の導電性材料から生じるジョンソンノイズが占めるため、チャンバーと安定化部品の設計は物理そのものと同じくらい重要になる。研究グループによると、フェムトテスラの領域では、アルミホイルの薄い膜一枚でも100 fTのノイズをもたらすという。また、この磁力計は感度の面では確立された技術に匹敵するが、生きた脳での実証はまだ行われていない。

共振に基づく動作は、センサーにできることとできないことの両方を決める。この磁力計が最も高い感度を示すのは、約305 Hzのねじれ共振の近くという狭い帯域だ。一方、脳の信号は広いスペクトルにわたり、その多くはより低い周波数にある。チームは、浮上磁場を調整することで共振を約260 Hzから318 Hzまで動かせることを実証し、これは信号が変動しても追従する閉ループ方式の可能性を示す。この手法を、生体磁気信号の多くが存在する低周波・広帯域の領域にまで広げられるかどうかが重要な未解決の問いであり、その答え次第で、この装置が物理の実証から生体医用機器へと移行する速さが決まる。

それでも、室温での動作、地球磁場への耐性、試料への極端な近接性という三つの要素が組み合わさり、これはウェアラブル型やベッドサイド型の磁気計測への異例に実用的な道筋となっている。次のステップは、帯域幅を広げ、実際の生体計測を実証することだ。それが成功すれば、浮遊する羅針盤の針は、液体ヘリウムを1リットルも使うことなく、神経科学に脳の電気的な営みを眺める新しい窓を開くかもしれない。

雅子 訳

Sources: Ji, W., Xu, C., Qu, G. & Budker, D. Levitated sensor for magnetometry in ambient environment. Science 393, 607-610 (2026). DOI: 10.1126/science.adx1707. Preprint: arXiv:2504.21524. Nature News, August 6, 2026.

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