
ほとんどの飛行機械は、プロペラや回転翼、羽ばたく翼といった可動部によって特徴づけられる。今週のNature Communicationsに報告されたロボットには、そうした可動部が一切ない。重さは36.7mgで、高電圧が電極の周囲の空気を電離させることで生じる、荷電した空気分子の流れであるイオン風から推力を生み出す。機械式アクチュエータもベアリングも歯車もなく、推進システムは静かで、固体構造(ソリッドステート)だ。繋留状態の試験では、閉ループ制御のもとで姿勢を保ちながら1時間ホバリングし、センサーを搭載できるだけの余剰推力を備えていた。
イオン風推進は、電気流体力学推力とも呼ばれ、単純な原理に基づく。高電圧をかけた鋭い電極が近くの空気分子を電離させ、その荷電分子が第二の電極に向かって加速する際に、中性の空気分子を巻き込んで引きずる。その結果生じる気流が推力となる。この現象は1世紀前から知られており、小型の固定翼機を飛ばした実績もあるが、昆虫サイズのロボットに応用するのは別の問題だ。そこには二つの障害があった。実用的なペイロードを持ち上げるには推力が弱すぎることと、これほど軽量で柔軟な構造では、複数の自由度にわたる飛行制御がほぼ不可能だったことだ。
南京郵電大学のWei Li氏が率いるチーム(南京、杭州、武漢、およびバーモント大学の共同研究者を含む)は、この二つの問題を解決した。鍵となったのは折り紙に着想を得た製造手法で、金属とポリマーの積層複合材料からロボットを組み立て、ほとんど重さがなくても形状を保つ剛性の高い機体に折り畳む。設計では構造、電極、センサーの各機能を折り畳んだ層に分離しており、ロボット全体を迅速かつ安価に組み立てることができ、そのコストは著者らの表現によれば使い捨てが可能な水準だ。
その数字が制御面での突破口を示している。慣性計測ユニットが閉ループ制御器にデータを供給する構成で、ロボットは開ループ運用と比べて、ピッチ角の二乗平均平方根誤差を83%、ロール角の誤差を89%削減した。安定したホバリングの維持、飛行中の姿勢修正、高忠実度イメージセンサーやひずみ測定用のファイバーブラッググレーティングセンサーを含むペイロードの搭載が可能で、その間ずっと事前にプログラムされたタスクを実行する。推力重量比は5対1で、この大きさのロボットとしては異例に高く、それによってペイロードの搭載が可能になっている。
この成果が示唆するのは、単一の機械ではなくロボット工学の規模の問題だ。1グラム未満の重さで可動部がなく、使い捨てにできるほど安価に製造できるロボットは、群れ(スウォーム)での展開の候補となる。崩壊した建物、損傷した工業プラント、あるいは危険な環境に数十機から数百機を放ち、空間のマッピング、物質の識別、情報の中継を行わせるのである。著者らはこの研究を自律型マイクロロボット群飛行へのアプローチと位置づけており、狭隘空間の監視、災害救助、危険環境の探査への応用が期待されるとしている。
イオン風の物理は、この設計に異例の頑健性を与えている。可動部がないため、従来の意味で摩耗したり、詰まったり、壊れたりするものは何もなく、推進は従来型ローターが非効率になる小さなスケールでも機能する。代償となるのは高電圧の必要性だ。イオン風の発生にはkV級の電位が必要で、今回の実証では電力と制御信号はテザー(繋留ケーブル)を通じて供給され、それによって1時間のホバリングも可能だった。機上電源による非繋留での運用は、なお今後の課題として残る。
留保すべき点は、原理実証ならではのものだ。1時間のホバリングは繋留状態で行われ、閉ループの実証が示すのは制御可能性であって、完全な自律航法ではない。単一の制御されたロボットから協調した群れへの移行には、ここでは扱われていない通信、電力、衝突回避の問題を解決する必要がある。著者らは、この研究が完成したシステムではなくアプローチを提示するものだと認めている。
イオン風の手法は、駆動そのものをなくすことで駆動の問題を完全に回避している。折り紙に着想を得た製造は、金属とポリマーの複合材料と迅速な組立により、マイクロロボットを実験室に閉じ込めてきたコストと製造可能性の壁に取り組む。著者らは、この製造上の進歩が実用的な群展開への重要な障壁を克服するものだと位置づけている。
この手法の適用範囲には規模による限界がある。イオン風の推力は小型では有利にスケールするため、36.7mgのロボットでは機能するが、機械が大きくなるにつれて物理的な有利さは薄れ、従来型ドローンの動力源にはなりそうにない。対象となる領域は、極小で、使い捨て可能で、到達が困難な場所だ。そこでは、可動部を持たない静かで固体構造の機械が、プロペラ駆動の設計では敵わない利点を持つ。
この節目は確かなものだ。センサーを統合した高推力・超軽量のイオン推進ロボットの制御飛行は、ドローンというよりはちりの粒子に近い航空機械への一歩だ。静かで、固体構造で、失っても惜しくないほど安価で、誰もヘリコプターを送ろうとは思わないような場所にも入り込めるほど小さい。
雅子 訳
出典:Tao, Q., Gu, Y., Wang, X. et al. Controlled flight of high-thrust ultralight ion-propelled microrobot with integrated sensing. Nature Communications (2026). DOI: 10.1038/s41467-026-76462-y.

