量子コンピュータを冷凍庫から解き放つかもしれないダイヤモンドの欠陥

ほとんどの量子コンピュータは極低温を前提に作られている。超伝導量子ビットは絶対零度近くに保つ希釈冷凍機を必要とするため、量子ハードウェアは通常、専用の冷却設備を備えた特殊な実験室に置かれる。ドイツのスタートアップSaxon Qが発表したマシンは正反対のアプローチをとる。常温で動作し、標準的なサーバーラックに収まり、通常の交流コンセントに差し込むだけでよい。量子ビットが合成ダイヤモンド内部の欠陥であり、ダイヤモンドは冷却なしで量子状態を安定に保つからだ。

量子ビットは窒素-空孔中心と呼ばれる。ダイヤモンド結晶の中で窒素原子が空いた格子サイトの隣に位置する原子スケールの欠陥で、レーザーとマイクロ波パルスで初期化、操作、読み出しができる電子スピンと核スピンを内包する。常温・常圧では、ダイヤモンドの極度の硬さにより、通常なら量子ビットのコヒーレンスを破壊する振動を生み出すのに十分な熱エネルギーが存在しない。また超高純度ダイヤモンドには、他の材料を乱す内部電磁ノイズがない。この分野の研究者は、常温の窒素-空孔中心が、他のプラットフォームにおけるミリケルビン環境にほぼ相当する環境を、冷却の機械装置なしで経験していると説明している。

Saxon Qのマシンを10量子ビットの壁を越えさせたブレークスルーは、材料技術である。空孔が作られる際に硫黄を同時注入するという手法だ。同社とその共同創業者でありライプツィヒ大学の実験物理学教授であるマリウス・グルントマン氏によると、硫黄は化学ポテンシャルを変化させて欠陥を負に帯電させ、電子を供給し、空孔が高い歩留まりで窒素原子に結合するようにするという。この工程がなければ、欠陥の化学反応はうまく機能しなかったとチームは述べている。

Saxon Qは、最大128量子ビットの構成で提供されるラックマウント型システムを出荷している。512量子ビット版は来年に計画され、長期目標は2030年以降に1万量子ビット超えだ。このマシンは、ネットワーク経由でアクセスできるマルチユーザー、マルチタスク、マルチコアのマシンとして説明されており、クライアントは量子コードをリモートで実行できる。同社は、誤り訂正前で忠実度99.92パーセント、1000回の演算につき1回未満の誤りを主張している。単一量子ビットの忠実度は7月下旬時点で99.98パーセントだ。同社によると、これらの数値はIBMとMITが報告した誤り訂正の結果に匹敵するが、独立した検証は行われておらず、10量子ビット超えで動作する窒素-空孔コンピュータの査読付き実証も発表されていない。

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常温はマシンの設置場所を変える。極低温設備が不要になれば、量子コンピュータは通常のデータセンターや大学の研究室、あるいは将来的には車両や工場のフロアにも置ける。ローカルで実行すれば、量子の処理をクラウド施設に送る際のレイテンシを回避でき、これはロボティクスや自律システムにとって重要だ。トレードオフも同様に明確だ。超伝導システムは個々の演算では一般的に高速であり、スケーリングは依然として難しい部分だ。現在のチップは1枚あたり8〜16量子ビットしか搭載していないため、数百〜数千量子ビットに到達するには、はるかに多くの量子ビットを1つのアレイに詰め込む必要がある。一方、実用的なワークロードは最終的に数十万〜数百万量子ビットを要求する可能性がある。これまでの窒素-空孔研究の大半も、コンピューティングではなくセンシングに焦点を当ててきた。

ダイヤモンドに賭けているのはSaxon Qだけではない。パース、フライブルク、オークリッジ国立研究所にあるハイパフォーマンス・コンピューティングセンターに常温動作のダイヤモンド処理ユニットが設置されているオーストラリア企業Quantum Brillianceは、量子処理ユニットを弁当箱サイズまで小型化するという公言した野望を掲げ、同じ物理に取り組んできた。Saxon Qは、ポータブルで常温動作のパッケージで10量子ビット超えを達成したのは自社が初めてだと主張している。これらのマシンが同等のサイズ、重量、消費電力を持つ古典アクセラレータを実際に上回るかどうかは、独立したベンチマークが決めることになるが、進む方向は今や明確だ。量子コンピューティングの低温時代が永遠に続くとは限らない。

雅子 訳

Sources: The world’s first diamond-powered portable quantum computer works at room temperature (TechRadar, Aug 2026); Engineers build world’s first portable diamond-powered quantum computer (Live Science, Aug 6, 2026); New Portable Quantum Computer Uses Lab-Made Diamonds to Run at Room Temperature (Science Times, Aug 7, 2026); Q&A: Inside Quantum Brilliance’s quantum computer technology (Oak Ridge National Laboratory, Sep 2, 2025)

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