
睡眠が始まる前に、体は熱を放散しなければならない。深部体温は夕方にかけてゆっくりと下がり、その緩やかな冷却が脳に一日の終わりと睡眠開始の合図を送る。ただし、夜が暑い場合は別だ。体が放出しようとする熱を部屋が閉じ込めてしまい、冷却は起こらず、すぐに訪れるはずの眠りは、天井を見つめて過ごす何時間にも変わってしまう。
こうした光景は地球上でますます一般的になっており、暑い夜が実際に睡眠を奪っているという証拠は、もはや無視しにくくなっている。
暖かい部屋が睡眠を妨げる理由
睡眠は温度を軸に成り立っている。体の内部サーモスタットは睡眠が始まる前に下がり、最も深く回復効果の高い睡眠段階が働いている間、夜通し低い状態を保つ。周囲の空気が暖かいと、そのプロセスは両端から乱される。寝つくまでの時間は長くなり、眠り続けることは困難になり、すっきりと目覚めることはもはや保証されない。
熱は主に皮膚を通じて体から出ていくが、その移動は周囲の空気が自分より冷たいことに依存している。寝室が暑いと温度勾配は狭まり、体は効率的に熱を放出できず、深部体温は本来あるべき値より高いままになる。冷却の合図を待っている脳は、体のシステムを覚醒状態に保つ。その結果、寝つきは遅れ、覚醒の回数は増え、夜通しの睡眠は短く浅くなる。
数字が示すこと
2020年から2025年を対象にしたClimate Centralの分析では、世界全体の損失は1人あたり年間およそ56時間の睡眠喪失とされた。米国の253都市では、住民は年間およそ36時間の夜間の休息を失った。最も影響を受けたアリゾナ、カリフォルニア、フロリダ、ネバダの各州では、暑さに関連する休息が年間7〜9時間失われ、世界で最も深刻な損失は中東、南アジア、東南アジア、アフリカ西部で記録された。
1970年代初頭以来、調査対象となったほぼすべての都市で、気温上昇によって失われる睡眠量は少なくとも2倍になっている。睡眠を奪う夜はもはやたまに起きる異常ではなく、夏の恒常的な特徴であり、春と秋にもますます頻繁に見られるようになっている。
学術誌『One Earth』に発表された別の研究は、700万件を超える睡眠記録に基づき、およそ30℃(86°F)を超える夜間気温と定義される非常に暖かい夜には、人々の睡眠時間が約14分短くなるとの結果を示した。より穏やかな水準でも、およそ25℃(77°F)を超える夜は、7時間未満の睡眠になる可能性を高めた。気温が上がるにつれて就寝時間は遅くなり、夜間の睡眠時間は減った。最も気がかりな結果は、人々が暖かい夜に慣れる兆しをほとんど見せていないことだ。耐性が身につく兆しはなく、夜が暑くなるにつれて休息は危険にさらされたままとなる。
一晩の数分の損失は取るに足らないように聞こえるかもしれない。しかし、暖かい夜が続くと損失は積み重なり、数週間のうちに気分、思考、日常のパフォーマンスを変えてしまう。2026年6月に英国で起きた熱波はその点を如実に示した。YouGovの調査では、成人の65%が暑さのせいで眠れなかったと回答した。そのうちのおよそ半数は、1晩に3時間以上の睡眠を失ったと報告している。
その影響は翌日まで及ぶ。2016年にボストンで起きた熱波の際、研究者らは『PLOS Medicine』に発表された研究のために44人の若年成人を追跡した。エアコンのない環境で暮らしていた人々は、より高い室内温度に耐え、注意力、処理速度、作業記憶のテストで低い成績だった。この研究は小規模で若年成人に限られていたが、基本的な点を示している。暑い夜の翌日には、日中の機能が損なわれるのである。
最も影響を受けやすいのは誰か
暑い夜の負担は均等に分けられているわけではない。高齢者は、体温調節の効率が低く、睡眠自体もすでに浅く壊れやすいため、より脆弱だ。暑い地域に住む人々は、重要となる基準値を超える夜に多く直面する。頼りになる冷房設備のない世帯、予算の制約でエアコンを導入できない家庭、すでに睡眠に悩んでいる人々は、いずれも被害のより大きな部分を負担している。
エアコンは役立つが、万能の解決策ではない。設置と運用に費用がかかり、利用できる人は限られている。エアコンを稼働させていても、外の暑い夜は休息を妨げることがある。寝室が体に必要な温度まで冷やされているとは限らないからだ。冷房は手段であって、保証ではない。
できること
良い寝室は涼しく、暗く、静かだ。そして暑い夜には、涼しさが何より重要になる。安全であればエアコンや扇風機を稼働させよう。軽くて通気性の良い寝間着を着て、気温の変化に応じて夜の間に重ねたり外したりできる寝具を選ぼう。
就寝前の熱への曝露を抑えよう。寝る直前の激しい運動は体温を上げ、冷却のプロセスを遅らせるため、負荷の高い運動は日中の早い時間に済ませよう。就寝前のぬるめのシャワーは体の放熱を助けるが、非常に熱いシャワーは逆効果だ。日中は水分補給を心がけよう。暑い時期は水分の喪失が増えるからだ。ただし、就寝前の1時間の水分摂取は控えめにして、トイレに行くたびに睡眠が分断されないようにしよう。
暑い夜が続けて睡眠を妨げる場合、日中の眠気が当たり前になっている場合、あるいは休息の問題が健康、仕事、学業、安全に支障を来し始めた場合には、医師に相談する価値がある。AASM認定の睡眠センターなら、サーモスタットの向こう側で何が起きているのかをより詳しく調べてもらえる。
気候が変化するにつれて暑い夜は増えており、その一つひとつが睡眠に負担をかけている。体は休息の前に冷えるようにできているが、私たちの周りの空気はますますそれに協力しなくなっている。寝室を涼しく保ち、就寝前の時間を守ることが、今の夜と、今後訪れるさらに暑い夜の両方にとって、今できる最善の防御策だ。
雅子 訳
出典
How Climate Change Is Making It Harder to Sleep. SleepEducation.org (American Academy of Sleep Medicine). Published July 31, 2026. Medically reviewed by Dionne Morgan, MBBS, FCCP. https://sleepeducation.org/climate-change-sleep-hot-nights/

